デビュー30周年に届いた“最新刊”?小林泰三『此方より』全14編感想レビュー【ネタバレなし】

此方より レビュー

※本記事はAIを活用して作成し、管理人が内容を確認・編集しています。

本棚の住人、Konohaです。

以前の[小林泰三さん全作品まとめ]で「まだ手に取れていません」とご紹介していた『此方より 小林泰三未収録短編集』、ようやく読み終えました。

小林泰三さんは2020年11月に逝去されています。それでも今回、デビュー作『玩具修理者』からちょうど30年という節目に、単行本未収録のまま眠っていた14編がまとめて刊行されました。もうこの世にいない作家の”最新刊”に出会えるというのは、なんとも不思議な読書体験でした。

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『此方より』の評価

Konoha

Konohaの評価

  • おすすめ度 ★★★★☆
  • 怖さ ★★★☆☆
  • 発想の奇抜さ ★★★★★
  • 読みやすさ ★★★☆☆

読み終えて真っ先に思ったのは、小林泰三さんの引き出しの多さを一冊で味わえるということでした。ホラー、SF、ミステリーを自在に行き来する筆致は健在で、特にアイデアの飛び方には何度も唸らされましたが、ホラー一色ではない点と、設定の説明を削ぎ落とした難解な編がある点は頭に入れておくと安心です。


『此方より』とは

幼少期、研究者の伯父が住む不気味な村で過ごした夏休み。伯父の家で目撃した奇妙な装置と、化け物の正体とは……(「此方より」)。「首輪で繋がれた少女がいた」――虐待疑いの通報を受け児相職員が訪れたマンションの1室。職員たちはそこで”1匹”の怪人と邂逅する……(「愛玩」)。若くして死去したホラー短編の鬼才・小林泰三。2026年は、「玩具修理者」での鮮烈デビューから30周年目にあたる。これを記念して、単著未収録だった14編をこの1冊に一挙収録。待ち望まれた”著者最新刊”がここに!

帯にも”著者最新刊”と謳われている通り、これまでどの単行本にも収められていなかった14編を一冊に集めた短編集です。解説は恒川光太郎さんが担当されています。


『此方より』の見どころ

ホラー・SF・ミステリーが一冊に凝縮

14編を読み終えて驚いたのは、小林泰三さんという作家の引き出しの広さでした。冒頭の「愛玩」のような生理的な気持ち悪さのホラーがあるかと思えば、「量子密室」のようにシュレディンガーの猫を殺人事件のトリックに使うSF×ミステリーがあり、「強いAI」のように人工知能の定義そのものを問うハードSFもある。一冊の中でこれだけジャンルを横断できる作家は、なかなかいないと思います。

表題作「此方より」でタイトルが回収される仕掛け

表題作でもある「此方より」は、読み終えた瞬間にタイトルの意味がすっと腑に落ちる仕掛けが仕込まれています。詳しくは伏せますが、「此方(こなた)」という言葉が何を指しているのかに気づいたとき、思わずぞくっとしました。この一編のためだけにでも読む価値がある一冊です。

没後刊行という特別な意味

小林泰三さんが亡くなられてから、もう5年以上が経ちます。それでも、まだ読んだことのない作品が新たに刊行される——ファンとしてはそれだけで胸に来るものがありました。デビュー30周年という節目に、これほどまとまった数の未収録作が一冊になって届いたことに、感慨深さを覚えます。


『此方より』収録14編の感想

それぞれの短編について、簡単な紹介と一言感想をまとめました。

①愛玩

冒頭からいきなり気持ちの悪い一編でした。天才医者が女児を監禁しているのではという疑いから捜査員が踏み込んでいく展開なのですが、真相には触れませんが、想像していた方向とはまったく違う気持ち悪さが待っています。小林泰三さんらしい、身体をめぐるホラーの幕開けにふさわしい一編です。

②メロスの疑念

太宰治「走れメロス」のオマージュです。友人セリヌンティウスを人質にして刑の執行までに戻ると誓ったメロスですが、本作ではその「疑念」に焦点が当てられます。誰もが知る名作の裏側を疑いの視点で読み直す、小林泰三さんらしいひねりの効いた一編でした。

③掌の上の宇宙

「三億年ボタン」を思わせる設定の一編です。神になりたいと願った男が、ある日本当に神になれると告げられる——でも、実際になってみるとそれは想像していたような万能感とはかけ離れたものでした。「なりたかったものになれた先にある退屈さ」というブラックユーモアが効いていて、読後にじわじわ効いてくるタイプの話です。

④量子密室

シュレディンガーの猫の思考実験を、そのまま殺人事件のトリックに応用してしまうという一編です。観測した瞬間に生死が収束する、という量子力学の世界観をミステリーの謎解きに組み込む発想には唸らされましたが、正直に言うと世界観がぶっ飛びすぎていて、私はあまりついていけませんでした。好みが分かれる一編だと思います。

⑤大いなる種族

タイムトラベルの話から始まり、脳に電極を挿すことで時代も種族も惑星も超えて精神だけが旅をしていく——という、まさに小林泰三さんらしいスケールの大きな一編です。「大いなる種族」との対峙まで一気に連れていかれる読み応えがありました。

⑥二人を繋ぐ夢

二人の人間の脳を電極で繋ぎ、精神そのものを融合させようとする一編です。「記憶と意識」「自己とは何か」という、小林泰三さんが繰り返し描いてきたテーマがここでも顔を出していて、短い中にもしっかりと読みごたえがありました。

⑦強いAI

「強いAI」とは何かという定義から始まる一編です。精神を獲得したAIの正体をめぐる仕掛けが用意されていて、その着地の仕方が個人的にとても好みでした。AIと人間の境界を扱うテーマは、まさに今の時代だからこそ響くものがあります。

⑧単純な形

正八胞体(テッセラクト)で作られた”次元潜水艙”というアイデアだけで、もうワクワクしてしまう一編です。四次元の構造物という発想の飛び方が小林泰三さんらしく、思わぬ形で”閉じ込められる”展開に唸らされました。「こういう話も書けるんだ」と、この作家の引き出しの多さを改めて感じさせられます。

⑨最初の角逐

シャーロック・ホームズのパロディで、ルパンVSホームズという構図で描かれる一編です。恥ずかしながら私はホームズシリーズをきちんと読んだことがないのですが、それでも十分に楽しめました。原典を知っている方は、もっと深く楽しめる仕掛けになっていると思います。

⑩きらきらした小路

正直に言うと、14編の中でいちばん難しかった一編です。彗星の視点で語られているらしいという構造で、「きらきらした路から外れると死の光にボロボロにされて死んでしまう」という不気味な世界観だけは強く伝わってくるのですが、全体像をつかみきれたか自信がありません。何度か読み返したくなる一編でした。

⑪虹色の高速道路

めちゃくちゃにSFな一編です。細かいことは伏せますが、なぜか関西弁を喋る存在が出てきて、そのオチにはくすっとさせられました。肩の力を抜いて楽しめる一編です。

⑫自分霊

自分という存在が誰かに”育てられた”AIだったのでは、という疑いから始まる一編です。「自分とは何を育てているのか」という問いが、読み進めるうちにぐるりと反転していく構成が面白く、短編ならではの鮮やかな切れ味を感じました。

⑬シミュレーション仮説

タイトルそのままの一編です。死んだと思ったら布団の上で時間が巻き戻っていた、という導入から、「この世界はシミュレーションなのではないか」という思考実験が展開されていきます。オチで語りかけてくるような珍しい構成になっていて、読んでいて「たしかに世界はいつも自分視点で動いているな」と妙に納得してしまいました。

⑭此方より(表題作)

表題作にふさわしい、この一冊を締めくくる一編です。詳しくは伏せますが、読み終えた瞬間にタイトルの意味が回収される仕掛けが用意されていて、思わず声が出そうになりました。「此方(こなた)」という言葉を意識しながら読むと、より一層楽しめると思います。


『此方より』がおすすめな人

小林泰三さんの既刊をあらかた読み終えて、遺された作品をもっと読みたいという方に。ホラー・SF・ミステリーをジャンルの垣根なく味わいたい方にもおすすめです。

一方で、次のような方には少し肌に合わないかもしれません。

  • 一貫した「怖さ」を求めている方(本書はSF・ブラックユーモア寄りの作品も多く、ホラー一色ではありません)
  • 短編よりじっくり長編の物語に浸りたい方
  • 量子論やAIなど、科学的な発想が絡む作品を敬遠したい方(「量子密室」「きらきらした小路」など、やや難解な世界観の作品も含まれます)

それでも、小林泰三さんという作家の引き出しの多さを一冊で味わえるという点では、間違いなく貴重な一冊です。ファンならぜひ手に取ってみてください。


近い読み味の作品

科学的な発想を軸にしたミステリー・SFということでいうと、当ブログで紹介している森博嗣さんの[全作品まとめ]も近い読み味だと思います。理系的な発想の飛躍を楽しみたい方は、あわせてどうぞ。

小林泰三さんのほかの作品や、メルヘンの世界と現実が連動する[メルヘン殺しシリーズ]については、[全作品まとめ記事]でジャンル別に整理しています。


よくある質問

質問

『此方より』は怖いですか?

回答

一貫してホラー色が強いわけではなく、SFやブラックユーモア寄りの作品も多く収録されています。じわりとした嫌な怖さを求めるなら「愛玩」や表題作の「此方より」、純粋にアイデアの飛躍を楽しみたいならほかの作品、という読み方ができます。

質問

小林泰三作品を読んだことがなくても楽しめますか?

回答

楽しめると思います。ただ、短編ごとにテーマも作風も大きく変わるため、まずは代表作である『玩具修理者』やメルヘン殺しシリーズの『アリス殺し』から入って、この作家の作風に慣れてから読むほうがより楽しめるかもしれません。

質問

量子力学やAIなど、科学の知識がなくても読めますか?

回答

「強いAI」や「シミュレーション仮説」のように素直に楽しめた作品もありますが、「量子密室」のように世界観がぶっ飛びすぎて、私はついていけなかった作品もありました。設定の説明を最小限に削ぎ落とした難解な編もあるので、最初から全部を理解しようとせず、分からない編があっても短編集なので次の一編へ進んで大丈夫だと思います。

質問

どの作品が一番のおすすめですか?

回答

迷いますが、表題作の「此方より」とホラー短編の「愛玩」は、この一冊を象徴する2編だと思います。SF寄りの作品では「単純な形」「大いなる種族」の発想の飛び方が特に印象に残りました。


おわりに

小林泰三さんの引き出しの多さを、これでもかと見せつけられる一冊でした。ホラー、SF、ミステリー——ジャンルをまたいで自在に書き分ける筆致は健在で、もうこの作家の新作を読めないという事実を、読んでいる間だけは忘れさせてくれました。

ほかの作品や著者プロフィールは、こちらの記事でまとめてご紹介しています。

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