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本棚の住人、Konohaです。
『忌館 ホラー作家の棲む家』『作者不詳 ミステリ作家の読む本』に続いて、三津田信三さんの「作家三部作」の締めくくり、『蛇棺葬』と『百蛇堂 怪談作家の語る話』をレビューします。この2冊は、ひとつの物語の前編と後編にあたる作品です。どちらも再読で、前編の『蛇棺葬』は★3、後編の『百蛇堂』は★5でした。
前編でじっとりと積み上げられた謎と怪異が、後編で一気に襲いかかってくる。2冊続けて読むことで、ようやく本当の怖さがわかる作品だと感じました。今回は前後編をまとめて、ネタバレなしで感想をお届けします。
『蛇棺葬』『百蛇堂』の評価
『蛇棺葬』『百蛇堂』とは
前編『蛇棺葬』
幼いころ父に連れて行かれた百巳家。そこに無気味な空気を漂わす”百蛇堂”がある。私はそこで見たのだ。ずるっ…ずるっ…と暗闇を這うそれを…。やがて旧家に伝わる葬送百儀礼の最中に、密室状態の堂内から忽然と父が消える。屍体に取り憑く魔物の仕業か?日本の怪異に背筋が凍る、傑作ホラージャパネスク。
後編『百蛇堂 怪談作家の語る話』
作家・三津田信三に託された実話怪談の原稿。読んだ者には忌わしいあれが現れて…忽然と姿を消す。不可能状況で頻発する児童連続失踪事件と「あの原稿は世に出してはいけない」という龍巳の言葉は何を意味するのか?葬り去られるべきものが世に出たことで謎と怪異が続発!そしてラストに待つ衝撃の結末。
2003年に講談社ノベルスから2か月続けて刊行された、作者と同じ名前の”私”が主人公になる「作家三部作」の第3作です。『蛇棺葬』が前編、『百蛇堂』が後編で、2冊でひとつの長編になっています。前編の『蛇棺葬』は、ある男性が6歳のころと、それから二十数年後に旧家・百巳家で体験した出来事を語る形で進み、三津田さん本人は登場しません。後編の『百蛇堂』で、作家の三津田信三がその体験談を聞き、原稿を託されるところから、物語が大きく動き出します。私は講談社文庫のKindle版で読みました。
『蛇棺葬』『百蛇堂』の見どころ
旧家の因習と「葬送百儀礼」の不気味さ
前編の舞台は、山あいの町にある旧家・百巳家です。座敷牢に閉じ込められた祖母、近づいてはいけないと言われる山、竹藪の奥にひっそりと建つお堂。そして、家の主が亡くなったときに行われる「葬送百儀礼」という、外の人間には意味のわからない儀式の数々。刀城言耶シリーズを思わせる土着の因習が、子どもの目線で描かれるので、何が起きているのか理解できない怖さがいっそう際立ちます。お堂の暗闇の中で「何か」と鬼ごっこをする場面は、三津田さんらしい描写で、情景が頭に浮かんでくるほどでした。
前編と後編で、語り手も物語の形も変わる
前編は、ある男性の子ども時代の回想と、大人になってからの帰郷の物語です。後編では、三津田信三が主人公に戻り、おなじみの怪談うんちくや、親友・飛鳥信一郎、友人の祖父江との会話が帰ってきます。前編は丸ごと「誰かの体験談」で、後編はそれを受け取った作家の物語。2冊をまたいで物語の形そのものが変わる、ぜいたくな構成です。『忌館』に登場した人物も顔を出すので、三部作を読んできた方ほど楽しめます。
怪異に、理屈で立ち向かう推理
後編では、前編で起きた不可解な出来事、たとえば密室状態のお堂から人が消えた謎などに対して、飛鳥が現実的な解釈を示していきます。「怪異のせいで片づけるのではなく、人間の仕業として説明できないか」と考える推理パートは、『作者不詳』で頼れる探偵役になった飛鳥の見せ場です。その一方で、推理では説明しきれない怪異も、容赦なく迫ってきます。ミステリーとしての謎解きと、ホラーとしての恐怖が最後までせめぎ合う展開が、この作品の醍醐味だと思います。
『蛇棺葬』『百蛇堂』の感想
前編『蛇棺葬』:ぬめっとした気持ち悪さが続く
母を亡くした”私”が、父に連れられて初めて百巳家を訪れるところから物語は始まります。家の人たちはみな冷たく、座敷牢の祖母からはひどい扱いを受け、唯一優しくしてくれるのは民婆という老女だけ。6歳の子どもが体験するには恐ろしすぎる出来事が続いて、読んでいて胸が苦しくなりました。
印象に残ったのは、大人になった”私”が、葬送百儀礼の中で「湯灌(ゆかん)」を行う場面です。作業の描写そのものが生々しく、そのあとに起きる出来事も含めて、ぞわっと鳥肌が立ちました。帰郷した”私”が、河原の家の老人に手招きされる場面も、あまりの気持ち悪さにしばらく頭から離れませんでした。
ただ、前編は多くの謎が提示されたまま、ほとんど何も解決せずに終わります。三津田さんも飛鳥も出てこないので、作家三部作らしさを期待していると、少し物足りなく感じるかもしれません。めちゃめちゃ怖いというよりは、ゾッとするような、ぬめっとした怖さがずっと続く1冊でした。単体の評価が★3なのは、そのためです。
後編『百蛇堂』:三部作でいちばん怖く、容赦がない
後編は、三津田さんが出版パーティーの帰りに、ひとりの男性から声をかけられる場面から始まります。90年代の怪談についてのうんちくが披露された瞬間、「ああ、作家三部作が帰ってきた」とほっとしました。そこから、託された原稿を読んだ人の身に次々と異変が起き、あらすじにある「あの原稿は世に出してはいけない」という言葉の意味が、少しずつ見えてきます。
物語の中盤で、飛鳥の家を訪ねる場面があります。『作者不詳』で頼りになる探偵役のイメージがついていたので、飛鳥が出てきただけでうれしくなりました。前編の不可解な出来事に対して、飛鳥が示す解釈には「確かに、それなら筋が通る」と何度も納得させられました。怪異のせいにして終わるのではなく、人間の仕業として解釈しようとする姿勢に、心を動かされました。
それでも、物語は理屈だけでは終わりません。終盤、三津田さんがある場所へ向かう場面では、前編の原稿の文章が途中途中に挟み込まれながら話が進みます。現実と原稿の境目がわからなくなっていく三津田さんの混乱がそのまま伝わってきて、本当に恐ろしい気持ちになりました。最後に明かされる真相と、そのあとに続く結末は、三部作の中でいちばん容赦のないものです。救いのある終わり方ではありませんが、それも含めて「これぞ三津田信三のホラーだ」と感じる、とても恐ろしい物語でした。
『蛇棺葬』『百蛇堂』がおすすめな人
村の因習や旧家の秘密が絡むホラーミステリーが好きな方に。 刀城言耶シリーズのような土着の怪異と、作家三部作ならではのメタな仕掛けの両方を味わいたい方には、ぜひ2冊続けて読んでほしい作品です。
一方で、次のような方には少し合わないかもしれません。
- すっきりと謎が解けて、気持ちよく本を閉じたい方(後味の重い結末です)
- 前編だけ、後編だけを読もうと考えている方(2冊でひとつの物語なので、必ずセットで読むことをおすすめします)
前編のじっとりとした不気味さを我慢して読み進めた先に、三部作でいちばんの恐怖が待っていますよ。
よくある質問
『忌館』『作者不詳』を読んでいなくても楽しめますか?
前編の『蛇棺葬』は独立した物語なので、どこから読んでも楽しめます。ただ、後編の『百蛇堂』には『忌館』『作者不詳』の登場人物や出来事がたくさん出てきますし、結末の衝撃も三部作を通して読んだほうが何倍も大きくなります。私は、刊行順に『忌館』から読むことを強くおすすめします。
『百蛇堂』だけ読んでも大丈夫ですか?
おすすめしません。『百蛇堂』は、『蛇棺葬』の内容を三津田さんが読んだところから始まり、前編の出来事への推理が物語の中心になります。前編を読んでいないと、後編の怖さも謎解きの面白さも半分以下になってしまうと思います。2冊セットで用意しておくのがおすすめです。
ミステリーとホラー、どちらの要素が強いですか?
私は、作家三部作の中でいちばんホラー寄りだと感じました。前編はほぼ純粋な民俗ホラーで、後編で飛鳥による謎解きが加わります。ミステリー寄りだった『作者不詳』とは反対に、推理で説明できる部分と、説明しきれない怪異のせめぎ合いを楽しむ作品です。
怖さはどのくらいですか?グロテスクな描写はありますか?
血が飛び散るような派手な描写は多くありませんが、葬儀の場面での遺体の扱いなど、生々しく感じる描写はいくつかあります。怖さの中心は、暗闇を這う「何か」の気配や、得体の知れない存在に近づかれる気持ち悪さです。夜にひとりで読むと、物音が気になってしまうタイプの怖さだと思います。
おわりに
『忌館』から始まった作家三部作を読み返してきて、最後にこれほど恐ろしい物語が待っていたことを改めて実感しました。1作目は館、2作目は同人誌、そして3作目は旧家の因習と実話怪談の原稿。どれも「作家・三津田信三」の身に怪異が降りかかる物語ですが、作品ごとにまったく違う怖さを味わわせてくれる三部作でした。
三部作の1作目・2作目が気になった方は、『忌館 ホラー作家の棲む家』の感想レビューと『作者不詳 ミステリ作家の読む本』の感想レビューもあわせてどうぞ。三津田さんのほかのシリーズは三津田信三の全作品まとめで紹介しています。
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